デジタルアンプの考察と実験(2012.4)

デジタルアンプとの関わり

真空管オーディオのホームページなのに、なぜデジタルアンプの話なのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そこで、真空管アンプを研究する筆者が、折々でデジタルアンプに遭遇した話を少しだけ書いておきます。

まず、オーディオに興味を持ったきっかけ。
中高時代に第一次オーディオブームがあって、スピーカー作ったりコンポを買ったりそれなりの時期はあったのですが、社会人になってからは、オーディオマニアは自分とは遠い存在と思うようになっていました。そんな時に、仕事で出かけたオーディオエキスポ(オーディオフェアの後身、音展の前身)で、当時発売されたシャープの1Bitアンプにいたく感激しました。100万円以上のアンプですから、購入は縁の無いものと思いましたが。。

直後に真空管アンプの音に魅せられ、再びオーディオ誌を読むようになったのですが、当時の企画で3方式の比較試聴というのがあって、そこでの結論は、

☆石(トランジスタ系)アンプ→普通の音、製品によって個性もあるし、高価だったり性能の高い製品はそれに応じて良い音がでる。
☆デジタルアンプ→くせの無いすっきりした音。石と球の中間のような音。
☆球アンプ →製品によっても違うが、一般的には、太くて艶のある音。

というのもでした。この話は大いに共鳴できて、今でもそんな風に思っています。

その後も、ソニーのSMasterPro搭載のサウンドデザインさんのアンプをイベントで聴いて感心したり、ラステームの気軽に買える製品を見つけて購入(デジタルアンプは安くても性能が高いことを確認)してみたり。

そして、2012年の1月に単なる暇つぶしとして購入した月刊STEREOの付属デジタルアンプ『LXA-OT1』(2012年01月新春特別号付録)を雑誌込み2800円で購入して、くせの強いメインスピーカー(フィールドコイル)との思わぬ相性のよさを確認して再び研究テーマになったしだいです。

プリアンプが真空管で、パワーアンプがデジタルが良い?

球かデジタルアンプか、ということを悶々と考えていたら、ザ・キット屋さんのブログでエレキットの真空管プリ+デジタルパワーのハイブリットアンプ「TU-H80」(EK-JAPAN TU-H80、完全限定品・真空管アンプ組立キット)が褒められていました。

この方式が優れているのでは、というような話をされていました。確かに、すっきり系に濃さと艶を加えたら良いかも知れません。というより、当方でも同じ結果を何度か出しています。

(2020.3追記)その後もこの方法は鉄板のようで、最近では中国製デジタルアンプを日本向けにカスタマイズ製造販売しているNFJ(ノースフラットジャパン)が、デジタルアンプの前段に入れる真空管プリアンプシリーズを販売していて、大ヒット、好評のようです。

 

デジタルアンプは電源に敏感?

IC化されたデジタルアンプは、回路が簡単ゆえ、電源にすこぶる敏感ではないかと思われます。実際に、付録アンプ『LXA-OT1』は、編集部や多くのマニアがその実験に取り組んで、その大きな違いを確認しています。

そこで、百十番もやってみました。

ACアダプター仕様というのをよいことに、付録で付いていたスイッチングのACアダプター、部品箱から探してきたトランス式の昔のACアダプター、リチウムイオンバッテリー、の3つを試しました。

付録スイッチングは、平凡な音で、特定の帯域に耳障りな部分がありエージングを進めてもなかなか取れません。トランス式は、太い音になり、リニア電源で良い物を使えば良くなりそうな予感を大いに感じさせました。(ただし、安物なので音に艶がない)。リチウムイオンはその中間か。

次に、高価な電源も試そうとした時に、とんでもないことが起こりました。キクスイの高価な実験用リニア電源をつなげようと、アンプの電源端子に合うオスの端子か端子付きコードを探したのですが、手持ちにありません。この程度で工作も面倒なので、今後同様なことを考えて、万能端子を入手することにしました。

方法は、旅行用の万能ACアダプターを買って、そのコードと端子だけをちょん切って使用するというものです。思いついたのが、通勤途中でしたので、そのままアマゾンの即日配達品を携帯で注文しました。「出力6段切替!マルチACアダプターAC-M1000」というものです。商品到着後に、まあ、ちょん切る際にもったいないのでこれの音を聴いてみようと接続すると、「うん?何だか良いぞ」ということになり、じっくり試聴です。そして、そのあとこのアダプターが当分の間、メインの座となりました。

実はこの間にWoody&Allen工房さんのカリン製ケース頒布に応募して、振動対策を兼ねたすばらしい外観に生まれ変わっていたのですが、それにしても。。

プリアンプをどうするか

付録デジタルアンプは、ボリュームがあるのでプリアンプは要りません。ところが、メインシステムの環境は、サブウーハーを使用しているので、特殊な事情ながらプリアンプはとりあえず必要です。

自作真空管プリ(12BH7A・SRPP)を使ったほうが、以前ラステームのデジタルアンプのときも結果が良かったので、まずはこれでよしと思いつつも少し実験してみました。万能ACアダプターがたまたま良い物だとすると、他の機器でも良い結果が期待されます。そこで、ヤフオクで以前GETした『PGA2311電子ボリューム』を真空管プリの代わりに接続してみます。

これは、DC-DCコンバーターが入っていて、これを排除しないと良い音にはなりそうもなく、改造が面倒でほったらかしにしてあるものなのですが、PGA2311にはオペアンプが内蔵されているらしく、一般的なオペアンプのプリアンプ代わりに実験材料とします。万能ACアダプターを予備入れて後2台買い足し(安いので)して、追加の1台を電子ボリュームに接続しました。回路的には色付けの少ない機器同士でピュアな音が期待されます。

しかしながら、結果ははずれ。自作真空管パワーアンプも加えて各種組み合わせを試しましたが、「真空管プリ+デジタルアンプ(万能アダプター給電)」の圧勝です。

ちなみに、こう書くと真空管パワーアンプよりデジタルアンプが良いというふうに思ってしまうかもしれませんが、あくまでも、特殊なスピーカー(ヴィンテージの4Ωの励磁スピーカーで高能率)でのケースですので、最近の広帯域で味付けの少ないスピーカーなら、真空管+真空管の方が味があって、百十番は好きです。

真空管パワーアンプの欠点に、ダンピングファクターが相対的に低いことと、トランスの巻き線を繋ぎ変えないと、出力のインピーダンスが変更できないというのがあります。さらに、私のレベルの自作だと、ハムの追い込みが甘く、高能率スピーカーだと(普段は気づかない程度でも)時に気になります。励磁(フィールドコイル)スピーカーを鳴らしきるにはアンプの改造が必要で、このスピーカーだけのためにそんなことをやる気になりません。

こうした場合の対処法として、今回の組み合わせはとても良いのではないかと思いました。

本当に安物万能アダプターは良いのか?

計測したわけではないので、聴いた感じだけですが、デジタルアンプでは好結果だった万能アダプターは、電子ボリュームではパットしませんでした。どちらが良いのか?決着をつけるために、メインでは使用していないUSBDAC(DDコンバーターとして使用)に接続してみました。普段コチラはキクスイの高価な実験用リニア電源に繋いでいますので、敵に不足はありません。

結果、もしかしたらキクスイよりも良い感じです。クラシック系も、室内楽、オケともに不満は感じません。というわけで、やっぱりこれは当たりかもしれません。性能的には比べるまでもないものなので、あくまでも相性という観点です。

良いデジタルアンプが欲しくなった

付録のデジタルアンプは、前段にオペアンプが入っています。オペアンプを交換して音色の違いを楽しむ、というSTEREO誌とLUXMANの企画は良いのですが、出来ればそういう余計なものがないものが欲しくなります。ラステームも既に手離して手元にありません。

本格的なものは、まだまだ先で良いのですが、このACアダプターとかを使って遊べる安価なデジタルアンプ(流行の中華デジアンとか?)を探してみようと思います。その後、ネットで情報を収集した結果、評判の良いのはトライパスのTA2020というチップを使用したアンプらしいということがわかりました。

トライパスは既に倒産して製造はされていないようなのですが、かなり大量に生産されたらしく、今でも(2014年当時)中国製の安価な製品が大量に供給されています。メーカー自体はUSAなのですが、最後に市場に出た韓国工場製のものが最近は主流のようですが、何年もたって一向に供給が減らないので、コピー疑惑などもあるようです??また、その後分かったことですが、中古のリサイクル品もあるようです。何でも、パチンコ台に大量に使われたとのことで、そのパチンコ台からのリサイクル品とか。

韓国工場製は足が金メッキで、少し良さそうです。2020よりも数字の多いチップもいろいろありますが、出力とかは向上していたり、メーカーとしては上位の製品と位置付けたりしたようですが、オーディオの不思議で、情報を総合すると、2020がやはり人気のようで、すなわち高音質が期待できます。そういえは、このチップを使ったアンプをかつて所有していたのを思い出しました。

ラステーム(ラステームは会社の枠組が変わり、現在は別名の会社がその技術を受け継いでいるそうです)の小さなアンプです。今は手元にないのですが、確かに悪い印象はありません。また、今に至っても中国の複数社が日本のネットショップとも連携を取って、このチップを使用した改良機を開発しては販売しています。アマチュアの自作にも使用され続けています。

オーディオの世界ではこの手の話は珍しくありません。改良しやすく、素性が良いということが類推されます。そこで、最新の改良機をためしに買うことにしました。このごろでは、改良といっても、パーツの物量作戦になっているようです。回路や基板の設計はもうある程度出尽くしたのでしょう。

オーディオの自作マニアやガレージメーカーが好んで使う、オーディオグレードのパーツ(割高だが音が良いという評価の部品類)をふんだんに使用しているようです。それでも元々部品も少なく、高くつく部品は必要ないし、おまけに中国やパプアニューギニアなどで作られるため、驚くほど安く上がるようです。というわけで、選んだのが、『SA-36A』という製品です。

もう一つ気合を入れて改良している製品もあったのですが、発売後数分で売り切れるという人気ぶりで、とても入手できませんでした。

その後最終的に、2018-19年頃に購入したFX-202j最終ロット(デュアルアンプで駆動)

ついでに、中国から直輸入してみました。香港経由の船便なら送料無料との事で、注文後30日かかりますが、急ぎませんのでOKです。

結局、付録アンプと同じようなコストで入手できそうです。日本の安売りショップの60%位のコストで済みそうです。但し、サポートは本国なので、故障などの場合は厄介。不良品の確立も高い国なので、良い子はまねしないでください。

TA2020を使った中国製デジタルアンプについて

船便で本国から取り寄せた「S.M.S.L SA-36A」ですが、本来の音質を出すまでのエージングに泣きたい位時間が掛かります。1週間以上という報告をネットで見つけましたが、それ以上、場合によっては1ヶ月かもしれません。

また、電源(ACアダプター)による差はあまりわからないと報告されている方もいらっしゃいますが、私に言わせれば「電源でコロコロ変わります」です。アンプだからそれは当たり前だと思います。

普通に試聴すればわかり難いかもしれませんが、再生の難易度の高いソースで課題がはっきりしているものだと結構判りましたエージング中でどれでやっても満足な音にならない状態だったので判ったのかも知れません。エージングに時間が掛かりすぎて、手持ちのあらゆる電源で試したりしました。

上記の万能ACアダプターは、何故か相性が悪く、ハードオフのジャンクコーナーでトランス式含めて使えそうなものを大人買いして試しました。結局セオリー通りのリニア電源(トランス式のアナログ電源)の高品位なものが良いという結果です。ただし、濃い音が嫌いな人はスイッチング電源がよいかもしれません。手持ちの中で最も品位の高い、キクスイの安定化電源に繋いでいますが、消費電流は0.1A程度です。

ACアダプターは1Aよりも3Aくらいのほうが良いという報告が多いですが、これは、容量が多い方が安定性(平衡度という意味ではなく)が高いのか、製造品質が高いのか、重さがあるので振動に強いのか、そのような理由かもしれません。

で、結局、エージングが待ちきれず、1度は「駄目だこりゃ(本当に情けない音しか出ませんでした)」と放置。数ヵ月後に再トライしてまた断念。あきらめていたらNFJの「FX Audio FX-202A 」というTA2020使用の市販品としては最高品位の製品が国内中古で入手可能だったので、思わず購入してしまいました。

早速こちらを繋いだところ、「ワンダフル!」であります。量販店などで石の10万円以下の量産アンプなど買う意味はない、という文句なしのレベルです。SA-36Aは、音楽を聴くのは苦役でしたが、こちらはいつまでも聴いていたい感じです。

何故かACアダプターの穴がSA-36Aより小さく、手持ちや大人買いした電源がほとんど使えません。上記の万能アダプターのみ使用できましたが、これで充分と思わせるレベルでした。やや締まった低音、倍音まで美しく響く高音、全体的にくせのないフラットな音で、聴き疲れがしません。レポートのため、もう一度SA-36Aの音を聴こうと繋ぎ変えたら、ここで大異変!!エージングがいきなり終了しています。FX-202A を100点とすると、80~95点位のレベルになっています。以前の結線を間違ったのかなあ、と思わせるレベルになっていました。

(少しまとめます)

なんでも、使用部品を吟味しつくして、電源にチョークを入れ、基板も見直したというFX-202A ですが、後出来ることが2つ思いつきます。TA2020というチップは、5Vのレギュレーターを内蔵しているそうですが、これを使わないで外部化すると激変向上するというレポートがいくつか報告されています。

セオリーとして、そりゃそうでしょう。そして、電源もオーディオ的に品位の高いリニア電源を使って欲しい。

この2点を実施した製品があれば、ものすごく良いアンプに(簡単に)なると思います。改造品の自己責任でも良いですから、どなたかヤフオクで販売してもらえないものでしょうか?私たち自作派なら電源は何とでもなりますが、真空管工作派には基板改造は億劫ですし、自作派以外の方は両方ないと。。

このページで紹介したアンプ、凄くご機嫌なシステムが出来ちゃいました。くわしくは「国民システムその2」へ。

 

その後にやったツインアンプ(2020.5追記)

FXオーディオのTA2020チップ仕様のアンプ(特に大阪のノースフラットジャパンが品質管理した日本仕様品)には、当時の体験から大いにリスペクトがありました。

そこで、その後かなり(約5年)経ってから、このシリーズが最終ロット発売という情報に触れ、居ても立っても居られなくなりました。ノースフラットジャパン(NFJ)の人気商品は、一気に発売されず、限定量を発売しては即完売の繰り返しです。とりあえず、頑張って1台のみ購入できました。

品物が届いて、使った感じも悪くなかったのですが、1台のみ普通に使うのは以前の繰り返しでしかなく、ここは新しい試みに進めることとしました。そこで、まずはもう1台同じ最終ロットの品物を入手しました。ヤフオクで少しプレミアが付いた価格でしたが、元が激安なので、コスト的には許容範囲でした。

電源は、手持ちで最も性能の高い、オーディオデザインのアナログローノイズ電源です。万能電源も試しましたが、さすがにオーディオデザインには勝てません。

普通なら、2台のステレオアンプを有効活用するのは、バイアンプが有効です。バイアンプというのは、最近のスピーカーがバイワイヤリングという高域低域が独立した別々のネットワークを内蔵していることが多いため、それを活用するものです。1台を右専用、もう1台を左専用にします。さらに、1台のアンプのステレオ出力を高域用と低域用の2つスピーカー入力端子に別々のスピーカーケーブルで繋ぎます。そのため、アンプの入力も右用なら同じ右側のプリアンプ出力を2つに分岐して同じ右側信号を入れる訳です。

このバイアンプは、すでにサブシステムで試したことがあり、主に解像度が増してそれなりに効果的だったので、今回は別の方法を取り入れました。というのも、メインシステムはバイワイヤリング対応ではないのでその方法はとれないためです。それともう一つ理由があって、以前SPEC(デジタルアンプの専門メーカー)さんの試聴会で、ツインアンプという別の方式による効果を目の当たりにした経験があり、それを試したいという事でした。

ツインアンプは、それぞれのステレオアンプの片側のみを使い、もう一方を遊ばせて(休ませて)使用する方法です。結線はシンプルですが、他にもBTL接続など、2台のステレオアンプ使用法の中では、無駄が多く、高価が少ないような想像をしがちです。ところが、実際にやってみると、物凄い効果。これは体験しないと、やってみようという気すら起こらないかと思います。

もう一つ、性能の良いアナログ電源をヤフオクで入手して試しました。本当にかなり効果的で、今後、デジタルアンプを使うならこの方法を取っていきたいと感じました。

何故この方法が効果的かというと、ステレオ用に設計あるいは用意されたステレオ2つ分の電源が、1つのみで使用できて、電源にかなりの余裕を生じるためだと考えられます。やはり、オーディオに電源は重要という事だと思います。もちろん、2台仕様なので、チャンネルセパレーションも大幅に向上します。

ツインアンプは、おすすめです。特に低コストの中華アンプだと、2台使ってもトータルコストはさほどでもない場合が多いので、1台で良い結果なら、試す価値は大いにあると思います。